邦題:ヒポクラテスたち
原題:(同)
監督:大森一樹
公開:(日本)1980年
(著:hanea)
なんか思ってた青春物と違った!思ってた青春物と違った!うわあああああぁぁぁ…!
…でも先生ありがとうございました。
今回チョイスのお題は自分が高校3年の頃(10年以上前)に現代文の先生が授業時間中に見せてくれた映画。「俺は君らよりほんの少し長く生きているわけだけれど、授業的な事じゃなくて、一応の人生の先輩として、少し先に大学時代を過ごした先輩として、ほんの少しでも、何かもっと別のね、進学していくこれからの君たちに向かって何かを伝えられたらと思ってね。俺はまさにこの映画の時代に大学時代を過ごしたんだけど、今の君らから見れば、古臭い大学生像に映るかもしれないし、今の感覚にそぐわないかもしれない。でもね、俺らの大学時代って確かにこんな風だった。俺はもう何回もこの映画を見返してる。映画の内容を全部肯定するわけではないけれども、俺はね、成人するまでにか、あるいは成人した後でもいいから、いつか何かをこういうことをね、真剣に考える、仲間と真剣にぶつけ合える時期というのはあって欲しいと思うのね。今はね、大学生っていうと、やっぱ遊びって感じがすると思うし、君らの想像している大学生活もたぶんそういうのだと思うけども、俺はね、自分が過ごしたからかもしれないけど、大学時代の経験っていうのは他にもこういう事もあるって言うことをね、言葉では中々伝えられない部分なんだけど、伝えとこうかと思ってる。」と先生の談(うろ覚え再現)。
…まあとはいうものの。わずか現代文1コマ分の時間内で映画1本を見られるはずもなく、最初は先生が口頭で登場人物やら物語の概要やらをネタバレしない程度にざっくり説明したあとに、なんとなーく中盤~後半ぐらいを教室の小さいテレビに映して皆で見るという超絶未消化感の漂う視聴だった。しかも先生の口頭あらすじ説明が長くて最後まで見られ無かったという(笑)。
自分はテレビから随分離れた席だったので音は聞きづらいわ、画面は小さいわで正直何が何やらわからんうちに終わってしまったけれども、なんとなく断片的に入ってくる情報で、いつかこれは通して見て見ようと心に決めたのだけ覚えており、15年弱?たった今ようやくそれを実現したという次第。
前置き長くなった。閑話休題。
本作は、卒業間近のポリクリ医学生を描いた青春群像劇。時代は1970年台後半、学生運動の終焉期?ぐらい。登場人物の服装・出てくる建物・乗り物・町並みの全てがその当時。舞台は京都で、他所のレビュー等を見るに、三条ナントカ線とやらが地上を走っているというだけで郷愁の念に包まれる人も多数。
物語はただの普通の医学生の大学生活で、主人公が「はあ…」とか「まあ…」とか言いながら、主体性無くただの普通に流されて暮らして行く様を綴る(恋人の妊娠も、まあありがちな大学生活の範囲内だろうと思う)。個性的な同級生や寮の先輩の輪の中で暮らし、何かぽっかり空白の感じのする人物像の主人公。でも映画が進むに連れて心情の内面から焼き切れていく。慌ただしい喧騒の中で進む大学生活だったのに、終わりには主人公が心の底で真っ暗になって霧散していく。正直、「青春の葛藤」では片付けきれない重々しい主題の物語。医学という特性上、人体損傷やら手術シーンやらグロ描写多数有り。
監督は当時自主制作映画界からやってきたばかりの方だそうで、映像演出もなにかこう、素人の目玉にも「当時の自主制作映画ー!」というのがわかるぐらいこれ見よがしの自主制作映画っぽさを醸しだしており、それを新鮮味を以って見られるか、拙いわざとらしい表現と思ってしまうかで評価が分かれる感じ。自分は当時を知らない世代(生まれてすら無い)ので、圧倒的に前者で見られたから最後まで興味を持って見る事が出来た。
青春物って、なんか部活すごい頑張って若さ故の熱血で優勝しました物語とか、親しいお友達グループの一人に恋をしちゃってグループ内でケンカとかもしちゃったけど、若さに任せて突っ走り、素敵な恋が実りました(キャーステキ-)物語みたいなのを無条件で想像してた。本作も「青春物語」だっていうから、そういうもんだと思ってた。本作を見せてくれた先生も、きっと「若いパワーで一生懸命考えろ!行動しろ!」みたいな気持ちで見せたんだと思ってた。
…違ってた。全然違ってた。重かった。すごい重かった。「ぼくがかんがえたすてきなせいしゅん」と全然違う。想像と全然違う。駄目だよコレ、青春ゆえの過ちとかじゃ全然折り畳めないよ。見終わった後のもう事態は永遠に好転しない感で気持ちがドンドコ沈む沈む。しかも、群像の中にいた同級生の中にはきっちり医学生の後に医学の道のレールに乗っかっていったのも居て、そこに妙なリアリティが出てくるが故に、主人公とレールに乗れなかった登場人物たちのもう永遠に満ち足りた未来には辿り着かない悲劇的結末が現実味を持って感じられる。青春=爽やかとか思って本作を見始めた自分を真っ黒に塗りつぶしたい。
自分の中で持っているちょっと昔の若者の印象は、とにかく「小難しい事を言う」の一言に尽きる。本作で描かれる若者たちも実にその通りで、今の感覚で言ったら喋り言葉すら演説染みているように思えるし、変に生真面目で身の丈に合わない偉そうな話をしていて小馬鹿にして笑ってやろうかと思うレベル。それが、一人や二人でなく、出てくる登場人物全員がそうなのだから、この時代はこれが大学生の一般像だったんだろう。面白い時代だと思う。
なんか無気力な感じの主人公ですら、徳洲会の営業に向かって「僕も日本の医学はこのままじゃあかんと思っとります!」的な事を言ったり、キャンディーズの蘭ちゃんは研修で立ち会った手術を目の当たりにして、自分が医者として責任を持ってやっていけるのかという重圧に潰されていく。寮の面々も「我々はいかにすべきか」ということを真剣真摯に考えており、それを互いにぶつけ合っている。まだ医者じゃないというのに自分がもう医者であるが如く真剣に考えているし、考えた事を表に出している。いずれの場合もテーマはでかいし重い。正直、小難しく考えすぎているような気さえする。
でも、その割には医者の卵の癖に恋人妊娠させて苦悩するのだから間が抜けている。ここで我々が話あったところで結論は出ないとか言って議論を有耶無耶にするのだから間が抜けている。医者の道という本筋があるのに学生運動に傾倒して警察にパクられるのだから間が抜けている。真面目に考えて偉そうに演説垂れた結果がそれか?という、言う割に大したこと無い感。しかも言う割にやってる事違くない?というかやるにしてもやってること軽はずみすぎない?感。
ただ、考えてみれば大学生に限らず、成人して・社会人になって思うのは、大人って言う割に、自分は、自分の出来ることは、あんまり大したこと無いと言う事。自分は、出来もしないのに偉そうな事は言えないと、考えても口に出さないタイプだけれど、当時の学生は口には出してたとこは大きな違いかな。そして今も昔も、口に出そうが出すまいが、出来ることは思ったよりも大したことないのは共通してて、そこは変わらないんだななんて考えた。しかも考えている割に、やることは全然言ってることと違うんだよなあ。(自分含めて。)
そういえば、「そうであるべき像」と「実際の像」の乖離の顕在化は成人に近づくか成人になった直後ぐらいに襲ってくるもんで、起こした行動によって取り返しのつかない方向に行ってしまうのも成人に近づくか成人になった直後ぐらいからだなあと映画を見て思った。
15年弱。長きにわたってサボり続けてきた、自分の人生で最後と思われる現代文の授業が終了。先生が何を伝えようとしたのか、今となってはわからないし、実際今先生に会って聞いてもわからないと思うけれども(本人も言葉で伝えられないから的な事を言ってたし)、確かに自分が本作を知らないまま考えていた青春と、見終わってから思う青春は大分違うものになった。自分だって既に青春時代を通過した後のはずだけれど、その青春とも大分違うものを感じた。
青春と聞いて想像した青春と、自分が経験した青春と、映画の中の青春は全部違うものだった。青春は考えていたものよりずっと多義的で、人によっても時代によっても違うんだろう。でも全部青春。
いずれ過ぎ去るものだからと刹那的に謳歌できるものではなかったと思うよ青春時代ってのは。それは、実際に経験してみても思うし、映画を見た後でもそう思う。
めくるめく将来へ向かう華やかな道程のように感じられる、本当はほぼ足踏みの過程。でも一歩間違えたら奈落。
それは青春と聞いて想像した道程と、実際に経験した過程、でも映画で見た奈落。という感じ。
終わり。
(著:Dzi)
haneaと対照的に、青春映画としての側面では見ていなかったので、
随分と捉え方が違うと思う。それを踏まえて。
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始まり方がセンセーショナル。
いきなりヒポクラテスの説明。まぁ、この映画のテーマだし知識の無い人には嬉しいものだ。
そして、バイク事故の軽いグロから始まると…。
さて、仰天の最初の大きなテーマが避妊法(笑)
「コンドーム つけてやらねば メンドーウム(面倒生む)」
五七五にしたためるあたり、時代を感じる。そして、学生らしいリアルな感情がいいね。
主役の名前が「荻野(式で)愛(を)作(る)」ってのが、なかなかウィットに富んでいて良い。
この手のテーマが扱われていることから、人工妊娠中絶の数や、出生数に対する割合をしらべてみたのだが、特段増えている年代でもなく、むしろ減少傾向なんだよね。ただし、戦後数字35年が過ぎ、倫理観の変化が表れたのがこのあたりの年代なのかね?といろいろ勘ぐってみたり。実際どうなんでしょう。
ただ、大病院ではやるような事ではないという、ある意味良くないこととしっかり定着してきている時代だったのかと、あくまで推測。
後、今でこそ妊娠検査薬が簡単に手に入る世の中だが、35年も前ともなると、医療関係者ですら、検査キットのようなものを手に入れる事が難しかったんだなぁ。
しかし、医大生の彼女に結果として人工妊娠中絶をさせてしまうこと。
なんというか、荻野の言った「医者の不養生」っていう言葉がまさに。
二つ目の大きなテーマとして、精神病を持ってきているが、この辺りから所謂「キチガイ」を病気として社会認識してきた頃なのかね?
今でこそ「心の風邪」として、ライトに捉えられてきているメンタルヘルスだけども、逆に言うと、今の世の中に所謂昔の「キチガイ」が蔓延しているという闇があるのかもね。事実私も一時期「風邪を引いていた」んだが。
もちろん、軽度なので傍目には何も分からなかったろうけど。
そういう意味で、(おそらく)精神科は当時としては医者のカーストの中では高いものではなかっただろうと推測されるんだが、それでもそこに着目し興味を持った荻野は先見の明ありなのかなぁ。(しかし後に荻野は…。)
さて、手法として自分が地味に嬉しかったのは、登場人物の名前と年齢、何回生かを表示してくれる点。医大生という閉じたコミュニティの中で、年齢や立場が物言いや行動にどう影響を与えるのか、そういう観点で見ても面白い。
監督大森一樹自身の経験も重ねているのかな。
「うさぎやモルモットの命が人の命の為にあるなんて誰が決めたんですか」この言葉、重い。でも人間の命がその犠牲によって救われてきた歴史も確かなものだしね…。
この「ヒポクラテス」たちは、同じ医者を目指す人たちであるが、多種多様な思想を心に抱えながらもがき苦しんでいる。
社会派活動(デモ)を行い、医者として社会に一石を投じようとしてるものがいたり、(結局、捕まっているけど。まぁ言うなれば左翼活動者だったしね。)
主役である荻野は、その南田の言動を自分の考え方に重ねてみたりと、心情の描写が深い。
あえて8ミリを使って、手話を交えて表現しているところなんかは、面白い手法だなぁと。
思想や目標の海に彷徨っているのが映像から伝わってくる。
3つ目、覚せい剤にも軽く触れている 。
覚せい剤やって勝手にバイクで事故った人間に、多くの貴重な医師を引っ張り出して・・・。
いや、憤ることはもっともなんだけど、医師のあり方の問題として、
助けられる命は、しっかり助けるという考え方の人もいるだろうから、
ここでも意見はぶつかるんだろうね。
医療従事者はどの時代も、常に隣に死が座っているんだ。
そこに気づいた時に、医師になる覚悟が問われるんだろうね。
医療従事者及び、患者の死への対峙の仕方はこの35年でだいぶ変わっているのかな。本人へ告知するかしないかっていう点一つとっても、この当時はタブーであったであろうし。
医大に入り、夢を持って勉学に励んだ結果、葛藤に苛まれながら、
結果、集合写真の映らない選択(医師に成る選択への葛藤)をする一連の流れが1カットで表現されているシーンは面白い。
みどりに関しては、葛藤の結果自殺をしてしまうという最悪な結末であるが、
それもまた医師という難しい職業を志したが故のことなんだろう。
この事実は、終盤に静止画と共にテロップでの説明がなされるが、インパクトが強すぎて、しばらく思考が停止した。
医療従事者及び、患者の死への対峙の仕方はこの35年でだいぶ変わっているのかな。本人へ告知するかしないかっていう点一つとっても、この当時はタブーであったであろうし。
医大に入り、夢を持って勉学に励んだ結果、葛藤に苛まれながら、
結果、集合写真の映らない選択(医師に成る選択への葛藤)をする一連の流れが1カットで表現されているシーンは面白い。
みどりに関しては、葛藤の結果自殺をしてしまうという最悪な結末であるが、
それもまた医師という難しい職業を志したが故のことなんだろう。
この事実は、終盤に静止画と共にテロップでの説明がなされるが、インパクトが強すぎて、しばらく思考が停止した。
そして、荻野のパートナーのじゅんこが通っていた産婦人科がモグリだったというのも衝撃。伏線にみどりが、ブラックジャックを読んでるシーンが出てくるところもまたなんとも言えないセンス。
しかし、上記が故に荻野は精神科の先生ではなく「患者」になってしまった点、
なんともまぁ皮肉…。
人の命を扱うということの難しさを、医師の卵の学びや葛藤、争いなどの中から作品化したこの映画は心に深く突き刺さる何かを私に残したことは間違いない。
「面白い」という言葉が似合わない映画かもしれないが、「好き」な映画の一つになったことは確かである。
しかし、上記が故に荻野は精神科の先生ではなく「患者」になってしまった点、
なんともまぁ皮肉…。
人の命を扱うということの難しさを、医師の卵の学びや葛藤、争いなどの中から作品化したこの映画は心に深く突き刺さる何かを私に残したことは間違いない。
「面白い」という言葉が似合わない映画かもしれないが、「好き」な映画の一つになったことは確かである。
見終わったあとに知ったのだが、監督の大森一樹は実際に医大生であったということで、
この映画にリアリズムを埋め込むことができたんだなぁと納得。
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モノや文化について。
・当時のフェアレディZはやはりかっこよかったなぁ…
・街並みは意外とこの35年で変わっていないんだなぁ
・EMIがビートルズの儲けによって医療機器に投資をしていたとか、全く知らなかった
・みんなタバコ吸いすぎ(笑 そういう時代なんだね
・精神分裂病って言葉も今では統合失調症と言い換えられているよね。言葉狩り的な背景があるのかね?詳しくないからわからないけど。
・ブラックジャック読んでる(笑
・音楽を担当したダウンタウンブギウギバンドの曲がよい。ギターの鳴きが心情を上手く表している
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キャストについて。
みんな若すぎて、一部以外誰が誰だかわからないってのが最初の印象。
表情でやっとわかっていったかな。
しかし、みんなその後大成している豪華な面々。
手塚治虫まで出てるんだよ?
うん、もう一度深く考え持って見直したい映画だな。
以上。
・音楽を担当したダウンタウンブギウギバンドの曲がよい。ギターの鳴きが心情を上手く表している
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キャストについて。
みんな若すぎて、一部以外誰が誰だかわからないってのが最初の印象。
表情でやっとわかっていったかな。
しかし、みんなその後大成している豪華な面々。
手塚治虫まで出てるんだよ?
うん、もう一度深く考え持って見直したい映画だな。
以上。
************** 次回 2015年10月第4週 お題作品 ***************************
作品タイトル: 「ホットショット」(1991年)
監督:Jim Abrahams
主演:Charlie Sheen
さて、(意外と)頭を使う映画が多かったので、もっと馬鹿になれる映画を。
この映画、本当に「バカ」。いや、見てもらえればわかる。
説明なぞいらんのじゃ。
この映画、本当に「バカ」。いや、見てもらえればわかる。
説明なぞいらんのじゃ。

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